ーーー以下、2011年02月21日付のアエラより引用ーーー
「正体はわかっている」 見城徹・幻冬舎社長、独占インタビュー
突然株を買い占められた幻冬舎の見城徹社長が、初めて口を開いた。
2月15日の臨時株主総会直前、彼の周りには奇怪な動きが立て続けに起きているという。
幻冬舎の見城徹社長が不穏な動きを察知したのは昨年11月29日だった。見城氏は上場している幻冬舎をマネジメント・バイアウト(MBO)によって非公開化しようと、株式公開買い付け(TOB)を実施していた。議決権の3分の2超の取得を目標に1株22万円で買い付ける計画だった。それなのに株価は22万円を上回って推移し始めた。
「TOB価格を上回る幅が次第に大きくなったので、これは誰かが買い占めているな、と思いました」
案の定、ケイマン籍のイザベル・リミテッドが12月7日、幻冬舎株の30・59%を取得したと明らかにした。
「困ったとかショックとかは思いませんでした。よくまあ30%も買ったな、見事だと。これで3分の2超をめざしたTOBはできないな、と思いました」
●「イザベル利する発言」
イザベルという名前に心当たりはなかった。
「洒落た名前だな、って」
不気味なのは、イザベルは12月上旬に高値で株を買い取るよう要求する書簡を示したきり、正体を明かさないことだ。接触してきたのは、M&Aアドバイザーとして高名なGCAサヴィアングループの佐山展生氏だった。見城氏に連絡があったのは、12月15日のことである。
「佐山さんはアメリカ出張中、(イザベルの事務連絡先になっている東京桜橋法律事務所の)豊田賢治弁護士から『あなたを見込んで』と連絡があった、ということでした。佐山さんは『見城さん、筋の悪いところに株を売られたらどうしますか。私ならばまとめられます』と言ってきました」
以来、佐山氏は頻繁に訪れ、イザベルの正体は元村上ファンド主宰者の村上世彰氏であると言い出したが、それを見城氏はいぶかしんだ。親交のある村上氏から再三「自分ではない」と聞かされていたからだ。
「佐山さんからは『TOBを成立させない方がいい』とか『臨時株主総会の開催を流した方がいい』『イザベルに応募契約を結ばせた上で、もっと高い値段で再度TOBをしましょう』と言われました。私にはどうも言っていることが、イザベルを利するように聞こえて……。『あなたは何をしたいのですか?』とたずねると『見城さんのファイナンシャルアドバイザー(FA)をしたいのです』と。それで、私の腑に落ちない点を問いただそうと、GCAの渡辺章博CEOと一緒に来ていただき、一つひとつたずねたのです。すると佐山さんは『疑うのですか』と怒って退席されました」
1月18日のことである。
これについて渡辺氏は、佐山氏の提案は「敵対的な株主」を退散させる定石の方法と釈明し、佐山氏も「私が敵対的買収者のアドバイスをすることは100%ない」と断言する。
●「すべて録音します」
佐山氏が消えると、豊田弁護士が会談を申し込んできた。1月28日、見城氏が指定された会場に出向くと、テーブルの上に録音機があり、「すべて録音します」と言われた。豊田氏が連れてきた投資会社ハヤテインベストメントの杉原行洋代表は「私は代打です」と言った上で、「イザベルのジェネラルなアドバイザーです」と自己紹介した。
見城氏が豊田氏に「なぜ佐山さんに電話したのですか」と聞くと、言えないという返事だった。見城氏によると、このときの会談で、先方の2人は「どこかで増殖して回収する」と妙な言い回しをした。
2月4日に2度目の会談が取り持たれた。そこで豊田、杉原両氏は「本件は短期でとりまとめるのがハッピー。議決権プレミアムをつけた株価で買い取ってほしい」と言った。
「とにかく市場で買ってほしい、と。買い注文を出してくれ、そうしたらその分売ると。2月15日の臨時株主総会までにまとめたい、と3回目の交渉を提唱してきましたが、こちらはご辞退を申し上げました」
気をつけないと株価操縦を疑われかねない。そもそも見城氏には、変更TOB価格(1株24万8300円で買い付けると上方修正)より高値で買う気はない。この2度の会談内容を尋ねると、豊田弁護士は「買い取り要求をした覚えはないです」と言いつつ、「適正価格で買い取ってほしい」とも語った。
●株主総会は否決公算大
イザベルは現在、表面上、幻冬舎の37・4%の株をもつが、これは取引先の証券会社である立花証券から借金して信用取引で得たもので、株券は立花の担保になっている。イザベルが決済して現物株として引き取れば議決権はイザベルのものになるが、決済していないので議決権は立花のままである。
幻冬舎が臨時株主総会で定款変更の議案を可決するには、出席株主の3分の2以上の賛成が必要だ。だから3分の1を上回る議決権を持つ立花の意向が焦点なのだ。立花は棄権するつもりだったが、株主総会に出席して棄権すると会社側の提案が否決され、逆に総会に欠席して棄権すると会社側提案が圧倒的多数で可決する。棄権を選んでも出席株主が母数となるため、総会に出席するかどうかで可否を左右してしまうのだ。
そこで見城氏は立花証券の石井登社長との面談におもむいた。
「私たちは彼らをグリーンメーラーと思っていますが、どうされますか、と。すると石井さんは、お客様(イザベル)の意向は無視できない、さらに、総会には行くつもりです、ということでした。本来意思を持つべきではない取次証券会社の立花証券が議決権を有し、立花の社長さんが『お客様の意向を忖度せざるを得ない』というのです。従って私どもの株主総会は、立花の出方によっては否決される可能性が強い。そこのところを世間の皆様にきちんと見ていただきたい、と思っています」
●正体は1人の個人か
この2カ月間、見城氏は正体不明のイザベルの描く筋書きの主人公を演じさせられてきた。
「嫌な気分ですよ。こんなに正体がわからないのは。でも日々の仕事は一つもキャンセルしていません。睡眠時間は2、3時間ですけれど……」
これも不徳の致すところ、という。
「自分の持っている何かが、たぶんこういう事態を引き起こしたのだと思います」
そして、イザベルの正体はだいたいわかる、と打ち明けた。
「立花証券が非常に大事にされているお客様となれば、限られてきます。イザベルはファンドのように見えますが、私はその正体は1人の個人だと思っています。おそらく、どこかで私がその人に対して恨みを買うようなことをしたのでしょう。私の中でイザベルの正体は、ほぼ想定できているのです」
それは、見城氏と交際のある人物らしい。株を買い占められ困惑する見城氏の姿を見聞きして楽しむ、そんな趣味があるようだ。だから正体を明かさない。
その人物はいま見城氏を気の毒がって、しきりに連絡をよこしているという。(編集部 大鹿靖明)
【写真説明】
見城氏は2月9日、インタビューに応じた。「あまりにも不思議なことが多くて、何が起きているのか正確に知っていただきたくて」。沈黙を守ってきた彼が不審な出来事を遂に語った
<photo 編集部・東川哲也>