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豊田賢治氏、幻冬舎の見城社長の対立弁護士として、アエラにデビューする(1)

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日付
2010/12/27 
サブタイトル
 
説明

豊田賢治(とよたけんじ)
1971年8月2日生
1999年10月29日司法試験合格
2001年10月弁護士登録三田安田法律事務所所属
2004年6月ピ​ー​バ​ン​ド​ッ​ト​コ​ム​監査役
2004年8月オリック東京法律事務所入所
2006年1月東京桜橋法律事務所開設所長
2012年6月株式会社ヤマダコーポレーション社外監査役(2016年6月29日退任)
2013年1月株式会社リアルビジョン社外取締役
2015年8月グローバルアジアホールディングス株式会社監査役

ーーー以下、2010年12月27日付のアエラより引用ーーー

 出版界の風雲児が築いた王国は突如、見知らぬ相手に奇襲攻撃を受けた。
 気がつけば、城門の外は「野蛮な来訪者」が制圧している。
 (編集部 大鹿靖明)
 
 辣腕の編集者、見城徹(59)は12月7日、衆人環視のなか、思い切り平手打ちを浴びた。忽然と現れた何者かによってである。
 彼は自らが起こし、社長を務める幻冬舎の筆頭株主だった。それがもう違う。幻冬舎は7日午後4時31分、屈辱のニュースリリースを適時開示する事態に追い込まれた。
 「筆頭株主の異動に関するお知らせ」である。
 この日、イザベル・リミテッドと名乗るケイマン籍のファンドが幻冬舎株を議決権ベースで30・6%も買い占めたことが、イザベルが関東財務局に提出した大量保有報告書によって明らかになった。見城の議決権ベースの持ち分30・2%をわずかだが追い越し、幻冬舎は筆頭株主の交代を公にせざるを得なくなったのだ。イザベルはその後さらに買い増し、9日現在で32・7%を保有している。
 イザベルの大量取得が明らかになった翌日は、奇しくも真珠湾攻撃の日である。幻冬舎株の簒奪劇も、宣戦布告なき奇襲を彷彿とさせる鮮やかな手口だった。
 だが、フランスの女優やスペインの女王と同じ名を持つファンドに、見城はまったく心当たりがなかった。1週間以上たつ15日夜段階でも、見城はその正体をつかめなかった。来襲者がいったい何者で、どんな目的なのか、皆目わからない。
 
 ●幻冬舎を狙って設立
 見城率いる幻冬舎は数々のベストセラーを放ち、縮小傾向の出版市場の中にあって増収基調にある。それなのに株式市場の評価は低く、株価は14万~15万円台で推移してきた。新株発行による資金調達の予定がなく上場メリットを生かせない半面、上場しているがゆえに情報開示や会計制度の変更への対応を迫られ、負担感が強い。電子書籍が台頭するなか、従来のビジネスモデルはもう通用しない。抜本的な事業再構築をするには、株主の多さは手間になる。
 マネジメント・バイアウト(MBO)による株式非公開化を考えるのは、自然な流れだった。MBOとは経営陣による会社買収の手法である。株価が低ければ、買い取りに費やす資金は少なくて済む。上場を廃止すれば、面倒な情報開示や株主総会に煩わされることがなくなる。
 見城は9月27日、TKホールディングスを設立し、同社は10月29日、幻冬舎株の株式公開買い付け(TOB)を発表した。買い取り価格は、市場価格に約50%上乗せした1株22万円とした。みずほ銀行から63億円余の融資を受け、議決権の3分の2超を目標に買い付ける段取りで、期間は12月14日までの30営業日。すべてがうまく運ぶかに見えた。
 イザベルが“生まれた”のは、見城がTOBを宣告した2週間後の11月12日だった。つまり、はなから幻冬舎株の簒奪めあてに設立されたのだろう。出生地は、ケイマンにあるOGIERという法律事務所である。
 そこのマネージング・ディレクターであるヴィジャヤバラン・ムルゲスが、イザベルの代表者だ。マレーシア出身の彼はタックスヘイブンの金融サービスに精通し、ケイマンの金融機関を経て2004年にOGIERに入っている。
 ムルゲスは、東京株式市場で少しは知られた名前だった。幻冬舎株の大量取得にムルゲスがかかわっているとわかると、「またあいつか」という声が市場関係者の間で広がった。ムルゲスら3人の外国人が代表者として名を連ねるケイマン籍のファンド、マネージド・アカウント・インベストメンツ(MAI)は昨年1月に設立されて以来、日本の割安銘柄に活発に投資している(上のチャート参照)。その中には、幻冬舎同様、MBOやグループ再編に伴って上場廃止予定の銘柄が含まれており、投資手法に共通点がうかがえる。
 
 ●「日本人が動かしている」
 だが、MAIと共同歩調をとることの多い日本の投資ファンドの代表者は、
 「ケイマンでファンドをつくるときに、そこの法律事務所の人に代表者に就いてもらうことはよくあります。ムルゲスは形式的な代表者にすぎませんよ」
 と打ち明ける。
 一見すると外資ファンドが幻冬舎株を大量取得したように思えるが、実態はむしろ日本人が動かしていると考えた方がいい。そう、この代表者は見る。
 イザベルが開示した大量保有報告書を子細に分析すると、そんな見方が真実味を帯びる。イザベルは兜町の中堅証券会社である立花証券を使って株を買い進めているが、外資ファンドならば、ゴールドマン・サックスやクレディ・スイス、野村証券など大手を使うのが一般的だ。
 立花はむしろ日本の株式投資のプロが好む証券会社である。TBS株を06年に大量取得したABCマート創業者の三木正浩が、事務連絡先として使ったのが立花だった。そして、あの村上ファンドも、である。
 村上ファンドは05年1月6日、立花を通じてニッポン放送の65万株を取得している。これが後にライブドアの手に渡り、日本列島を騒然とさせたライブドアとフジテレビの攻防へ発展してゆく。ちなみに三木にTBS株を売ったのも、東京地検特捜部の強制捜査によって瓦解寸前の村上ファンドだった。
 イザベルは、5%以上の株式を取得して大量保有報告の届け出義務が生じた11月29日以降、一気に買い進んでいる。報告義務が発生した後、実際に情報が開示されるまで5営業日の猶予期間がある。その期間中に買い進み、5営業日目の12月6日には一気に3401株(12・3%)も取得した。つまり自分たちの存在が世に知れるとわかった瞬間から、猛烈な買い出動をしているのである。これは大量保有報告の仕組みを熟知し、たった1週間で阪神電鉄株の26%強を取得した村上の手口と似ている。
 インベスコやAIGなど四つの外国投資家が開示した大量保有報告書によれば、4者は幻冬舎株を3460株持っていたが、これはイザベルが12月6日に取得した株数とほぼ同じだ。イザベルがあらかじめ4者の投資家と話をつけて売買を成立させていたとしたら、それはライブドアがニッポン放送株を大量取得した手口と酷似する。
 イザベルの買い方は、外資ファンドらしからぬ信用取引である。その方が手金が少なくて済むからだろう。その手口も、イザベルが保有する幻冬舎の現物株300株と保証金を立花に差し出し、それをもとに信用取引で8696株を取得している点が注目に値する。300株以上持つ株主は、株主総会で株主提案権を有する。300株だけは手元に残すというのは、村上が総会での権利を有するために好んだ手法だ。
 
 ●「僕じゃない」と村上
 決定的なのは、幻冬舎は村上の好んだ割安株という点である。ニッポン放送や阪神、西武鉄道など村上が投資した多くの銘柄は、資産が潤沢なのに株価が不釣り合いなほど安かった。幻冬舎は負債がゼロの一方、利益剰余金などいわゆる内部留保が97億円余もある。典型的なキャッシュリッチ企業で、1株あたりの純資産は9月末時点の連結ベースで37万6060円もある。それを22万円と値付けしたのでは安い、見城はいずれTOB価格を引き上げる、イザベルはそう踏んだのだろう。
 結局、見城のTKホールディングスは12月13日、TOB価格を当初の22万円から24万8300円に引き上げた。32%強を握られ、もはや3分の2超は不可能と考え、目標議決権を3分の2超から50%超に下方修正した。買い付け期間も12月28日までに延長した。
 1株あたりの純資産額とは依然隔たりがあるが、幻冬舎の潤沢な内部留保のうち57億円は売掛金、つまり書店にある市場在庫だ。業界の平均的返品率は4割ある。内部留保の多くは本なのだ。だから、とても30万円強には引き上げられない。
 村上の手口と似ているが、現在シンガポール在住で、最高裁の判断を待つ刑事被告人の彼は「僕じゃない」と強く否定する。村上は、見城を高く買い、親しく交際してきた。見城がTOBをかけることに、数パーセントのリスクはあるよ、と忠告してもいる。TOBをかけると、公開買い付け者(この場合TKホールディングス=見城)は、自身が設定した値付けで、市場外でしか株を買えない。それよりも高値を出す相手に市場で株をさらわれる危険性はある。フジがニッポン放送へのTOB期間中に、ライブドアにさらわれたのと同じことが起きうる。
 
 ●「もの言う株主」に変更
 すると、起きたのである。
 村上ファンドの残党がつくる投資ファンド、エフィッシモは割安株投資が得意だ。そこの中核メンバーは投資対象の分析に優れ、村上の遺伝子を強く受け継ぐ。真っ先に疑われたのは彼らだが、彼らは常に名乗り、正体を隠したりしない。
 イザベルの連絡先となっている東京桜橋法律事務所の豊田賢治弁護士は、
 「どういう方がかかわっているか申し上げられません」
 と言った上で、
 「いつか時期がくれば、わかるかもしれません。ですが単にTOBに応募して終わりだと、わからないままかもしれません」
 と思わせぶりに言った。
 野蛮な来襲者にあわてふためいたニッポン放送やフジの幹部と比べると、オーナーの見城は腹が据わっているように見える。
 「上場しているのだから、こういうことが起きるのは仕方がないですよ」
 彼なりに泰然を装っているのかもしれない。内心は、一体何者なのか、何が目的か、穏やかではないはずだ。
 事情を知る人によると、ある人物が、そんな彼の動揺を見透かすように秘かに接触を試みた。見城に連絡がついたのは16日朝のことらしい。
 村上ではなかった。見城にとって、想定外の人物だった。
 荒唐無稽な話だった。わけがわからないまま電話を終えた。
 その翌日の17日、イザベルは「純投資」としていた幻冬舎株の保有目的を、発行者の資本政策、株券の価格水準などによって「保有する株券の価値の維持向上をめざして重要提案行為等を行うこともあり得ます」と訂正報告した。
 ゲームは始まったのである。
 まるで幻冬舎のベストセラー小説のような展開である。
 (文中敬称略)

 ■幻冬舎株を巡る動き
10月29日 見城社長のTKホールディングス社が幻冬舎にTOBを発表
11月12日 イザベル・リミテッド、ケイマンに設立
   29日 5%を超え、報告義務が発生
12月 7日 幻冬舎、筆頭株主の交代を発表。
       イザベルの大量保有報告書が開示される
    9日 イザベル、株の買い増しを開示
   13日 TKホールディングス、TOB価格を引き上げ

 ■幻冬舎株をめぐる相関図
 (保有株比率は議決権ベース。幻冬舎の保有自社株など議決権のない8551株を控除した)
 【見城徹】30.2%保有
 TKホールディングス
 アドバイザー/TOKYO企業情報、西村あさひ法律事務所
    *
 【イザベル・リミテッド】32.7% 保有の筆頭株主に
 [代表者]ヴィジャヤバラン・ムルゲス
 事務連絡先/東京桜橋法律事務所
 取引証券会社/立花証券

 ■ヴィジャヤバラン・ムルゲスがかかわった株式投資
 銘柄            直近の保有比率(時点)
 セントラルユニ 0.97% → 0.86%(09年9月2日) 《グループ再編で上場廃止》
 養命酒製造   0.72% → 0.20%(09/11.20)
 マークテック  2.00% →    0%(10/7.6)  《MBOで上場廃止》
 アバールデータ 2.41% → 3.59%(10/8.31) 
 松屋      1.06% → 0.69%(10/10.15)《村上ファンド投資銘柄》
 アロカ     1.34% → 0.77%(10/11.5) 
 瑞光      1.87% → 0.92%(10/11.9) 
 ナガワ     1.70% → 0.87%(10/11.9) 
 三條機械製作所 1.22% →    0%(10/11.19)
 日本セラミック 1.06% → 0.09%(10/12.2) 

 【写真説明】
正体不明の相手に神経戦を強いられる見城社長にとって、悪夢の歳末だろう。延長したTOB期間が終わる翌日、彼は還暦を迎える<photo 朝日新聞社>
<photo 久保木園子>

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2024/10/14 02:39:33 update りょう
2024/10/14 02:24:46 update りょう
2024/10/14 02:13:05 create りょう
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